五つ葉のクローバーの超主観的考察

~恋愛マンガの名作「めぞん一刻」を皮切りにラブコメ漫画の気になった点を超わがままに考察しています!~

彼女、お借りしますの感想と考察(特集)~千鶴が和也を好きになった瞬間はいつなのか!?~

7巻50話の「ばーかっ」までが描かれた「彼女、お借りします」のアニメ版。原作ファンとしてもここまでがひと区切りと思っていたのである程度納得の最終回だったわけですが、そのひと区切りは千鶴が和也に恋するまで・・正確に言えばその直前までだったと思っています。今回はこの間を原作で振り返り、千鶴が和也に恋した瞬間を探ってみます。

 

千鶴は和也の事を好きになっているのか!?

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彼女、お借りします 30話より

下田での海水浴以降は和也を意識するような様子を見せるようになったので、海での出来事から好意に繋がるような気持ちが芽生えたと見て間違いないでしょう。

ただ時折見せる千鶴の距離を取ろうとする言葉や行動に判断がつかなくなるのだと思います。具体的には海水浴からアパートに戻った際は意識したような態度だったのに、直後の大学では不審な態度を取る和也に「せっかく友達に別れたって切り出せたのに全て元の木阿弥」と叱りつけたこと、快気祝いの温泉旅行でも『別れた』と祖母たちに話そうとしていたことなどです。

ただこの時はみんなの前で別れを宣言されるとともに麻美への熱い思いを聞かされた直後。和也とはあくまでレンタル彼女としての関係なのだから大学で親しくするのは当然タブー。意識をしたとしても「別れた」で通すしかないわけです。 

そんな中でも千鶴は和也の言葉を受け「もう少しだけレンタルされてあげる」と態度を軟化させます。この言葉は「しばらくは別れたと言わない」と同義の意味になるわけですが、よくよく和婆ちゃんとのお風呂での会話を見ると、別れたと『今日は言えない』と判断することがあっても『当面は言わない』と思う動機になるようなものはありません。布団の上で和也が語った言葉も自分を必要としてくれていると感じるだけで同じでしょう。

そして何より「本物の彼女を作るまで」なんていつになるかわからないような期限を切ること自体が異常なこと。レンカノ関係だとしても何かしら和也に対し思う事がない限り、こんな条件提示はありないわけです。

その後は「お婆ちゃんが気にいっているから」「レンカノ辞めるまでは彼女だし」など何かと理由をつけて関係を維持しようとし、気が付けば1年以上も関係を続けていました。面倒見の良い千鶴の性格が出たという解釈もできますが、その間、麻美との進展を気にかけ、瑠夏へは関係を維持することで対抗心を見せているのだから、早くから好意めいた気持ちを持っていたのは明白でしょう。なにより和也へのプレゼントを選んだ際に見せた幸せそうな表情がすべてを物語っていると感じます。

 

海で助けられた件を千鶴はどう思っていたのか?

救急車の中では和也が助けてくれた時の事を思い出して顔を赤くし、アパートに戻った際は意識したような態度を取っていたのだから、何かしら和也に思ったのは間違いなし。命の恩人なのだから好意めいた気持ちが芽生えても何もおかしくはないでしょう。

ただこの時点で和也を好きになったと判断するのはいささか乱暴な気がします。直前にはみんなの前で別れの話を切り出し、男らしいところを見せた和也ですが、それ以前はその場しのぎの嘘ばかりついていたのだから好意的に見ていたとは到底思えない。そんな和也から助けられていきなり感謝以上の気持ちになるなんてことは通常あり得ないでしょう。木部や和婆ちゃんの言葉を思い出して行った人工呼吸もまた然りです。直前に何か和也に対し思うような出来事でもない限り・・

一番は千鶴自身が口にしたとおり、「彼女でもない自分をなぜ命をかけてまで助けようとしたのか?」という”困惑”の想いなのでしょうが、後の千鶴の発言や描写をみるとヒントと思えるようなシーンがあります。それは千鶴が和也をどのように評しているかという部分。

① 栗林とのレンタルデート(39話)
男の人は理想主義(ロマンチスト)、夢を持つことは難しいと話し、帰り際の栗林の問いには和也から依頼された時の言葉を思い浮かべて答える。

クラウドファンディングによる映画作り(107話・135話・137話)
映画製作の過程で女優の夢を目指すことを応援してくれた勝人爺ちゃんの言葉を和也に何度となく重ねる。

③ 海くんとのクリスマスお出かけ(125話)
海くんから和也の事を聞かれ、「映画製作のことなんか何も知らないくせに"作れる”って自信だけはあるし」などと語るも最後は「できるって言ってくれる人がいるのは大事だと思える そんな人・・」と答える。

④ 小百合婆ちゃんとの病室での会話(143話)
映画作りを頑張ったと評する小百合婆ちゃんに対し、「カメラの使い方も知らないし、脚本だって影も形もなかったのに絶対作れるとか言って!」と楽しそうに話す。

これら①~④の共通点は「夢をあきらめない」という部分。ここに触れたのはフェリーに乗る前のこの人物との会話しかない・・

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彼女、お借りします 13話より

実際、木部の「時々才能なんじゃねぇかって思うよ・・バカみてーに夢見続けられんのとか・・」という言葉に反応していましたが、実はその後の和也に対する見方を決定づけた言葉であり、読者が思っている以上に千鶴には重要な一言だったのかもしれません。

 

瑠夏の登場で千鶴の描いた和也との関係は白紙に・・

旅館客室での会話の結果、和也が本物の彼女を作るまでという条件でレンカノ関係を続けることを承諾するわけですが、それは心に何らかの芽生えがあり、和也の気持ちを確認したかった千鶴にとって渡りに船の相談でした。麻美への想いを間近で聞かされ、みんなの前で「別れる」と公言されたのだから、自分から近づくわけにいきませんからね。

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彼女、お借りします 27話・29話より

ただお婆ちゃんの事もあって程よい関係を作ろうとした矢先に現れたのは瑠夏でした。結果、瑠夏が和也の仮カノとなり、千鶴は和也と距離を置かざるを得なくなりますが、そんな中でも大学に押し掛けてきた瑠夏と和也を気にする様子を見せ、スマホケースをプレゼントする際は"二人の秘密”という言葉を使い”節度を持った大人の付き合い”という形で関係を続けようとしていました。ストーカーじみた行為に怒ろうともしないところを見ると自分を気にかけてくれたことが嬉しかったのでしょう。なにせ遠巻きにイチャつく二人をみたばかりでしたしね。瑠夏と対抗することで和也に対する”意識”が急激に高まっていったように感じます。

 

ちなみに「あなた 私の事 スキ?」と和也に問いかけたのは、和也の気持ちを確認したかったのは当然ですが、それとともに適切な距離を保って『二人の秘密』の関係を維持するために必要だったと思っています。ここで和也から「好きじゃねぇよ」という言葉を引き出したことで、『二人はあくまでレンカノによる関係でそこに好意はない』という言い訳を作れたわけです。後にみにに和也への気持ちを問われた際はこれが役立ちました。

また栗林とのレンタルデート時に言った言葉も和也との関係を心地よく思ってしまっている"意識"があるからこそ”好き”なのかと考え「どうかなっ?」と返したのだと思います。

 

和也の言葉に麻美への想いの強さを感じた千鶴は・・・

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彼女、お借りします 41話より

瑠夏の登場もあって和也の気持ちを確認できずにいた千鶴ですが、栗林とのレンタルデートを終えると和也とベランダでの会話を開始します。栗林は真実を知り、瑠夏と和婆ちゃんはすでに知り合いなのだから、もう瑠夏を仮カノとしておく必要はなし。そのこともあって自ら接触を図ったのだと思いますが、一方で瑠夏とは違って接点がない麻美との動向は聞きたく思っていたのでしょう。約束の件もありますしね。

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彼女、お借りします 41話より

ただ聞いた言葉は和也らしい言葉であるとともに麻美への想いや未練を感じるものでした。その言葉を聞いた千鶴はなぜかくるっと後ろに向きなおって部屋に戻ろうとしており、顔を見られたくない様子が伺えます。直前の表情を見る限り、和也のロマンチストな言葉に照れたというところでしょうか!?ここに限らず和也のロマンチスト発言に心動かされてしまう千鶴ですからね。

後の麻美との歩道橋でのシーンではこの言葉をそのまま使って説得しようとしていたので、千鶴にとって複雑で心に刺さる言葉だったのは間違いないですが、気になるのはこの時「付き合うわ・・忘れるまで」と言ったこと・・この会話の流れで忘れるに該当するのは「麻美本人」か「麻美への未練」のみ。千鶴的には忘れて欲しいと思っていたのでしょうか!?

 

その後、舞台出演が決まったことを理由にあげ「レンカノを辞めようと思うの」と相談を持ち掛けますが、和也から帰ってきたのは「今まで付き合って貰っただけでも感謝しきれない」といったもの。

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彼女、お借りします 45話より

麻美の時とは違った素っ気ない言葉に千鶴は「あなたの彼女については最後まで手を尽くすわ」と話しますが、一方でレンカノを辞め和也とも距離を置こうと決断します。和也なりに気を使った言葉だったのですが、相談することで和也の自分に対する気持ちを計ろうとしていた千鶴からすると思うような返答ではなかったし、逆に麻美との想いの差を感じたのかもしれませんね。・・千鶴は引き留めるなど自分を必要とする言葉が欲しかったのだと思います。

 

麻美に関係がバレたことが和也の本心を引き出し・・

レンタルオーダーにより麻美と予想外の再会を果たした千鶴は麻美に対し和也の事を真剣に考えるよう説得するわけですが、全く通じずじまい。

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彼女、お借りします 50話より

ただ麻美のオーダーは和也の知ることとなり、結果、想いが高ぶった和也からの「君がいいっ!!君がっ!!!」発言に繋がりました。和也のこの発言に千鶴は思うことがあったようですが、この言葉に好意を覚えたかと言えばそうではないでしょう。あくまで和也から好意めいた言葉を聞かされ動揺した・・「ばーかっ」は"バレバレの嘘を言ったこと"に対してか、もしくは「この前は言わなかったくせに・・」という想いから出た言葉だと思います。

 

弱音を吐く千鶴への和也の叱咤激励が二人の距離を近めて・・

舞台に選ばれなかったことに珍しく弱音を吐いた千鶴に対し、和也はその言葉を否定し「レンタルして夢見続けられるどんだけでも働く」「だから諦めるなんて言うなっ!!」と言って勇気づけました。

その時は悪態をついてその場を去った千鶴ですが、約束通りにレンタル予約を入れてきた和也に本気度を感じたのでしょう。後日、玄関先で会った際は「才能がある」と言ってくれたことに素直に「ありがとう」「あんなにはっきり言われたの初めてだったし・・」と話し、嬉しかったことを告白。 

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彼女、お借りします 55話より

レンタルデートのオフタイムには和也をバッティングセンターに誘って「対等でフェアなお隣さん」関係を提案・・ホームラン後には自ら和也にハイタッチをしてくるなど距離を自ら縮めてきました。

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彼女、お借りします 57話より

「フェアなお隣さん」の提案は当日のデートの冒頭にあった「毎週レンタルするのはやりすぎ」にかかった言葉ですが、言い換えれば千鶴の中で和也が顧客だけの存在ではなくなったと公言したも同じこと・・友達などではなく”お隣さん”という言葉にしたのは、『二人の秘密』を意識しての事なんだろうと思います。

 

その後、15巻までの千鶴の行動や言動は見てみると・・

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和也と同様に好意がバレることで関係性が変わることを危惧していますが、それまでと比べ接し方が柔らかくなり、和也の成長もあってか信頼するような行動が目立ってきています。好きになるとよそよそしい態度を取るようになる場合も多々ありますが、瑠夏の存在もあってか、何気に自分から距離を詰めていっていますね。

映画製作打ち合わせのために和也の部屋を訪れた13巻107話では入るなり「イチャイチャしようなんて気 さらさら無いから」と言っていました。和也が襲ってこないようけん制するなら「変な気起こさないでよね」というのが普通。ここで「イチャイチャ」なんて恋人関係でしか使わないような言葉を使うこと自体が意識しまくりだし、和也の好意にもしっかり気付いている証拠とも言えます。

15巻127話では海くんに対し、「好きじゃなくもない」とまで口にした千鶴ですが、8巻57話まで遡ってみてもその間に和也に対する気持ちに変化があったとは考えにくい状況。11巻91話で「おばあちゃんに別れるって言いたくない」「もうただの嘘じゃないの」と言ったのは多分に千鶴の願望が入っていたと見るべきでしょう。

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彼女、お借りします 53話より

これらを総合すると、レンタル申し込みを見て舞台後の和也の言葉を思い出し「馬鹿っ」「多すぎよ」と言った53話の最後のシーンが和也に対する気持ちが『好き』に昇華した瞬間だったように思えます。

身内は小百合婆ちゃんだけ・・という境遇だからこそ、親身とも言える言葉をかけてくれた影響は計り知れない。もしかしたら56話のレンタルデートまでにこう考えたかもしれませんね。
 

「この人が私を一生幸せにしてくれる人かもしれない」