五つ葉のクローバーの超主観的考察

~恋愛マンガの名作「めぞん一刻」を皮切りにラブコメ漫画の気になった点を超わがままに考察しています!~

アニメ「プラスティック・メモリーズ」の感想~寿命間近なギフティアとの思い出づくりが切なくも温かい作品~

f:id:kitchan42:20200513211147j:plain

林直孝/TVアニメ「プラスティック・メモリーズ」オフィシャルサイトより引用

2015年4月~7月に放映された林直孝氏原作のオリジナルアニメ作品。アニプレックスのプロデューサーから直々にアニメ制作の指名を受け、もともと短編小説として書き溜めていたアイデアを基に作成したとのこと。デジタルな記憶をテーマにしたアンドロイドと人との恋模様を丁寧に描いた様は「相手を思いやる心」という世界観で溢れていました。当時、新聞の一面を使って広告を打ったこともあって興味を持ちリアルタイムで見ていましたが、個人的には好きなアニメでした。

以下、ネタバレ要素を多分に含みますのでご注意ください。

【あらすじ】
大学受験に失敗した水柿ツカサは親のコネでアンドロイド「ギフティア」を製造・管理する世界的企業「SAI社」に就職する。81,920時間(約9年4ヶ月)で寿命を迎える「ギフティア」をフォローし期限前に回収する部署「第1ターミナルサービス課」に配属されたツカサだったが、急な配属もあってコンビを組ませるべく「ギフティア」がいないことから、ベテランの「アイラ」が急遽パートナーとして現場復帰することになる。決まりにより共同生活をすることになる二人・・ツカサはクールでめったに感情を表さないアイラと良好なパートナー関係を築こうと仕事でもプライベートでも奮闘・・徐々に打ち解けお互いに思いやる関係になるが、そんな中、アイラ自身の寿命はあとわずかだと知らされる。アイラとのパートナー関係を解消するかの選択を迫られるも最後を看取る(回収する)ためにコンビ継続することを決めたツカサはアイラとの思い出づくりをすることに・・

 

【好きな点】
「エラー」「よく聞き取れませんでした・・」というアイラの口癖が印象的なこの作品。「ギフティア」というアンドロイドが広く普及し人間社会に溶け込んでいる世界なのでSFストーリーのように思えますが、あくまでこれは「出会いと別れの物語」。別れが生々しくなりすぎないためのアンドロイド設定という感じでしょうか。だからSFとしての設定や作りこみが甘いのもしょうがないところ。細かな設定を期待した人も多かったのでしょうが、原作者はそんなのを無視して作ったようです。

回収時にはプライバシー保護の観点から立ち合い、所有者に見届けてもらうというのがターミナルサービスの仕事。アイラはベテランという事でしたが現場ではポンコツぶりを発揮しミスを連発。私たちの仕事を「思い出を引き裂くこと」と話していましたが、ハーブを育てるのが趣味と言うだけあって仕事ぶりも思いやる感情を重視・・効率的とは程遠いやり方をする優しい心の持ち主でした。カヅキとコンビを組んでいた際のトラウマから思い出を作ることを拒否しクールなキャラと変貌したようですが、ツカサの恋愛感情を端とした奮闘に徐々に打ち解けていく様がとてもいい。オープニング最後のアイラの表情が回を追うごとに変わっていく様もとても良かったです。

放送当時からツカサはギフティアじゃないか?と言われていましたが、敢えて生い立ちが見えず過去に葛藤のない人間味の乏しいキャラとして、アイラは過去に葛藤を持ちアンドロイドなのに人間らしく描くことで二人を対比させ、近づく別れにどう向き合うかを見どころにしたとのこと。総じてギフティアはみな人間味あふれるように描かれていた気がします。贈り物由来の名前で「相手を思いやる心」というのがひとつのテーマだったのでしょう。

カヅキの受け売りでミチルが「ギフティアを回収するだけでは私たちの仕事は悲しみしか生まなくなる」「大切なのはギフティアと所有者のどちらにも寄り添ってあげること」と言っていましたが、本社の意に沿わないそのやり方がこの物語の肝となる部分。当初、期限が決まっているのに回収を拒む人がいることを不自然と思いますが、単なる機械とは違う存在だからこそ借り手のエゴが出現し回収を拒むのだと回を追っていけば理解できてきます。

2話で早々とアイラの寿命の話が出てきたため、ある意味アイラの回収という最期は想像できたわけですが、それがどのように形で描かれるのかが一番興味を持つところとなりました。

6話でツカサはアイラの寿命があと1,000時間ほどしかないことを知らされます。回収業務を行うツカサなのだからアイラの寿命に抗うことは不可能だと十二分に理解している・・未来を避けられない、変えられない中でツカサが選んだ道は最後までアイラのパートナーで居ること。プライベートではデートをし、気持ちを伝え、そして二人の「思い出」を作ることでした。

「初デート」「花火」「告白」を経てなんとか恋人同士になった二人・・最期を舞台となったのはオープニングや作中でも数多く出てきた遊園地の観覧車でした。ターミナルサービスの同僚や先輩の計らいもあってアイラと最後に遊園地でのひとときを過ごし、閉園間際の観覧車の中、ツカサの手で機能停止処理を行い二人の思い出づくりは終了。奇跡が起こることもない終わり方でしたが、彼女の望んだ最期であり、満足げなアイラの顔が印象的でした。

 

最後に・・闇回収屋とワンダラーの話はいらないのでは!?と当時一部のファンがコメントしていました。ワンダラーという危険な存在になってしまうのになぜか自動停止や位置情報の装置も付いていない・・こちらも単なる機械と見たくないことからの設定なのでしょうが、そのように甘く感じる部分がそう思わせた理由なのでしょう。

この回の意味合いは、まずひとつが回収日を過ぎた時のリスクの提示。ワンダラーの脅威・末路を”ツカサ自身が実感する”ために担当の顧客や身近な人を例に挙げながら描く必要があったわけですが、もうひとつはツカサの悲しい笑顔や行動が「思い出はいらない」と心閉ざしていたアイラに気付きを与え、心打ち解ける転機とすることでした。

そしてもっとも重要なのは昔カヅキと組んでワンダラーに対処した時との対比。その方がよいと思い距離を取ったカヅキに対し、相棒として心配させないよう笑顔を作るツカサの姿がアイラの記憶に追加され、考えを変えるきっかけになった。闇回収屋はあくまでそのための一手段ですね。おかげで10話での「好きな人と一緒に過ごすのが一番嬉しいものなので」発言に繋がり、ツカサと恋人同士で最期を迎えることができました。

 

論理じゃなく感情で見る人には問題なく楽しめると思います。オープニング、エンディングとも個人的にはお気に入りの作品でした!