めぞん一刻を考察して⑥~こずえちゃんの五代への想い~
第15話「複雑夜」から登場し、響子さんのヤキモチ発生装置のような存在だったこずえちゃん。最終的には五代と朱美さんがラブホテルから出てきたことをきっかけにプロポーズされていた同僚の人と結婚することで退場していきました。
途中第107話「閉じられた扉」から第143話「戸惑いロマンス」まで約1年半登場しなかったため存在感があまりなかった感を受けてしまいます。
彼女はおっとりした性格で母から「こずえはネンネだから」と言われるよう年齢の割には幼く、世間を知らないようなところがあります。読者から見ると、まったく響子さんに敵わない存在として見ていたように思いますが、実際は響子さんにとっては一番の恋敵でした。それは五代とこずえちゃんの関係がよくわかっていなかったからです。
こずえちゃんは口に発した言葉がほとんどで、心で思ったのは「願い事かなふ」で神社にお参りするときの「今年こそ五代さんと・・」と「こずえちゃん気をつけて」で肩も抱いてくれない五代に「わかんない・・」という程度です。「戸惑いロマンス」「わかってください」「本当のこと」でも一度もありません。なかなか本当の心情を理解することは難しいところです。ただ五代のことを好きだったのかといえば「好きだった」です。それはプロポーズの返事を五代に相談しに来るなど響子さんと同じ手法をとっているからです。まずこずえちゃんの言葉の変遷を見てみましょう。
第15話「複雑夜」
「うれしい~コンタクトにした甲斐があったなー」「私、女?」
第20話「影を背負いて」
「ほかにつきあってる女の子いるのかしら」
「五代さんね・・あたしの初恋の人にそっくりなんですよ」
第26話「家族の焦燥」
「パパはねー恋人ができたら絶対うちに連れてこいって言うの」
第29話「私は負けない!!」
「この人はあんたのおにいちゃんになるかもしれないのにっ」
第31話「三年待って」
「あらー、家計のやりくりくらいできるわよお」
第38話「夏の思い出」
「夏の思い出が欲しいの」
「五代さんて、すっごい奥手なんだもん」
「見せびらかしたくなっちゃっただけ」
第46話「願い事かなふ」
「今年こそ五代さんと・・」
「ふたりきりになりたかっただけなんだから」
第50話「こずえちゃん気をつけて」
「なに考えてんのかしら・・つまらなそう・・」
「わかんない・・」「ほかに好きな女の人いるのかしら・・?」
第57話「Don’t フォロー ミー」
「嬉しいわ 五代さん、おうちのかたに紹介してくださるなんて・・」
第67話「落ちていくのも」
「ね、腕組んでいい?」
第82話「神経過微」
「五代さんがヤキモチやいて、二階堂さんと付き合うなって言うんだもん」
もともとバイト先で知り合い「複雑夜」で五代を見かけて自分から近づいており、「影を背負いて」では「ほかにつきあってる女の子いるのかしら」と気にした上で「五代さんね・・あたしの初恋の人にそっくりなんですよ」と話しています。
「家族の焦燥」~「三年待って」では恋人扱いで家族ぐるみの付き合いをすることで親密度を増そうとするものの「夏の思い出」~「こずえちゃん気をつけて」では五代が何もしてくれないことに少し不満を抱いています。
「Don’t フォロー ミー」でゆかり婆ちゃんに会わせてくれたことや五代がヤキモチを妬いたことから、その後の三鷹さんの言葉のとおり「大切にしてくれているのかな」という感じで見ているように思います。
すっかり大人びての登場だった第101話「大安仏滅」では保父資格を取るのに2年ぐらいかかることに「あたし平気よ 二年くらい」と言い、第107話「閉じられた扉」では五代を見ながら「あたしも早く結婚したいなー」と言っていますから五代との結婚を考えていることはわかります。
「本当はね、ちょっとぐらついてたんだ。OKしちゃおうかななんて・・」
「不安だったんだもん・・五代さんはっきりしないから」
「プロポーズしてくれる気あったなんて思わなかったんだもん」
第144話「わかってください」でのこの言葉を見ると、最近会うことも連絡もない五代に対し「私はただの友達」「ほかに好きな人がいる」と感じていたのは間違いないところでしょう。プロポーズされ五代に相談に行ったのは、プロポーズの返事のために五代の本心が知りたかったため・・
こずえちゃんには「好き」とさえ言っておらず、五代との間に確かなものはありませんでした。だから「本当に、おれにできることがあったら・・」という五代の言葉にキスを望みました。こずえちゃんは五代が奥手だと思っていたこともあり自分からキスしたのでしょう。
でも騙し討ちでキスしたのに「五代さんにキスしてもらっちゃったから」・・これは既成事実でも五代が自分を愛している証明が欲しかったしそう思いたかった。五代がいるからとプロポーズを断りたいと思っていたんですね。これも響子さんがとったやり方と似ています。
「戸惑いロマンス」での銀行の同僚の人にプロポーズされる場面ですが、待ち合わせ場所で「こずえさん」と呼ばれて「どおもー」と言うぐらいですから恋愛関係ではないことはわかります。なんかよく誘われるため、食事に数回行っていた感じでしょうか。同僚の人は好意を持って近づいているのでしょうが、基本ニブいこずえちゃんですから、「親切な先輩」ぐらいの思いしかなく好意には気づかなかったのでしょう。
別れの際に「本当にあたしのこと好きでいてくれるみたい・・だからあたし、そのひとを信じられると思う・・」とこずえちゃんは言いました。「・・みたい」に「・・思う」という言葉。五代に未練を感じるとともに今からその人と愛を育んでいくというつらい決意の言葉です。このように言葉を見ていくと五代のことが好きだったことは間違いない・・そう思います。
ではこずえちゃんは五代の好きな人が響子さんと気づいたのでしょうか?ニブいこずえちゃんですが、五代を好きだったのだから、うすうすではあるもの気づいていたと思います。
①第16話「桃色電話」で「たまに変な気分にならない?なるでしょ?」「だろうな・・美人だしスタイルいいし・・」と聞いたのに対し五代は否定せず。
②第20話「影を背負いて」で管理人さんは五代の帰ってくる時間を事細かに覚えていた。
③第107話「閉じられた扉」で「ねえ五代さん。本当はちょっぴり管理人さんにあこがれていたんじゃないの?」と聞いたのに対し五代は大きく動揺したこと。その際「管理人さんと三鷹さんが婚約」と聞いたのに管理人さんは1年以上経っても結婚していない。
④第145話「大逆転」で「プロポーズ断れなかった」「せっかくプロポーズしてくれたのに」と胸にすがったのに五代は管理人さんを追って行った。
このように思い返すなら浮かんでくることはたくさんあります。ニブいといってもこういうことには女性は敏感です。最近会うことも連絡もない五代に対し「私はただの友達」「ほかに好きな人がいる」と感じていたのだからなおさら思い返したと思います。
第152話「本当のこと」で「誰?やっぱり朱美さん?」「あたしの知らないひと?」と聞いたのに対し五代は言葉につまりました。朱美さん以外に知っているひとは八神さんと管理人さんしかいません。そして五代が管理人さんに憧れているのは知っていました。
別れ際に足を止めて「ねえどんなひと?五代さんの好きなひとってどんなひとなの?」と聞きました。「好きなひとって誰なの」ではなく「どんな人なの」と聞いています。その時の顔に悲壮感はありません。このときは何か引っかかるものがあり聞きたくなっただけだと思います。でも聞いたことで今も五代が言葉につまっている姿に引っかかった理由がわかったのでしょう。
「待って、やっぱりいい・・」と答えを遮ったのは「聞いて五代にイヤな思いをさせたくない」「五代との思い出を美しいまま終わりたい」という気持ちが強かったからだと思います。
こずえちゃんにとって五代は単に「好きなひと」ではなく、初恋の人に似た「憧れの人」だったんじゃないか・・そう思っています。